PERSPECTIVE

2020年03月28日

中国企业透视(11)熊猫星厨

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中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。

第 11 回は、飲食店向けにシェアリングキッチンを提供し、隆盛するフードデリバリーサービスを裏から支える「熊猫星厨(パンダセレクト)」を取り上げます。

 

Ⅰ.フードデリバリーの隆盛に乗って急成長

パンダセレクト(熊猫星厨)は、「餓了么(ウーラマ)」や「美団外売(Meituan Delivery)」等のフードデリバリー・プラットフォームに出店している飲食店向けにシェアリングキッチンを提供するサービスとして、2016 年 3月に創業されました。

シェアリングキッチンとは、十数~二十超の独立した厨房を備えた物件を運営し、個々の厨房を飲食店に貸し出すサービスです。レンタルオフィスの「厨房版」と言えば分かりやすいでしょうか。テナントとなる飲食店にとってのメリットもレンタルオフィスと同じく、出店時の時間とコストを大幅に削減できるというものです。水道・電気・ガス・排気設備は完備された状態で、消防許可の取得等もパンダセレクトが行いますので、飲食店としては、入居してすぐにでも営業が可能になります。また、デリバリー専門キッチンですから、配達先となる住宅地/オフィス街の近さのみが問題となり、実店舗への客流を考慮する必要がないため、そもそも賃料が低く抑えられています。

一般の飲食店が開業する際のコストが 50 万~100 万元と言われている中、パンダセレクトへの入居時のコストが約 10 万元と言えば、いかに初期投資を抑えられるか分かります。

パンダセレクトが創業した 16 年前後は中国のフードデリバリー市場の高度成長期であり、まさに、時代のニーズに応じて出現した新業態と言えるでしょう。

そのメリットは飲食店にも明らかだったようで、創業の地である北京では、僅か 1年で運営するシェアリングキッチンは 11 軒、入居する飲食店は 50 社を超えました。創業から丸 4 年になろうとしている 2020 年 2 月時点では、北京・上海・杭州・深圳の 4 都市合計で 103 軒のシェアリングキッチンを運営、火鍋チェーンの「海底撈」や本コラムでも取り上げたコーヒー・スタートアップの「瑞幸珈琲(Luckin Coffee)」など全国的に名の知れた飲食チェーンを含め、800 社を超える飲食店(チェーン)が入居しています。
2019 年 2 月にはシリーズ C で 5,000 万ドルの資金調達にも成功し、2020 年中に運営シェアリングキッチン数を 200 軒に伸ばすことを目標に、今後も積極的に事業規模を拡大しようとしています。

 

Ⅱ.飲食店にとって「何者」であるのか?

パンダセレクトは、自社を「シェアリングキッチン運営業者」ではなく「飲食業向けサービス・オペレーター」と自称しています。

実際に、パンダセレクトの運営するシェアリングキッチンは ISO や HACCP 認証を取得する等、入居している飲食店の品質管理/食品安全をサポートする役割も担っていますし、各店舗の WEB マーケティングや経営指標のレポーティング等も行っており、単なる「場所貸し」に止まらない運営管理サービスやソリューションを提供しているとも言えます。また「熊猫餐飲課堂」と題したセミナーを実施し、飲食業界の経営者や有識者のノウハウを入居飲食店に提供する、といったサービスも行っているようです。

しかしながら、こうしたサービスを全ての飲食店が充分に享受できるかと言うと、そうではありません。

『中国餐飲報告 2019』によれば、中国の飲食業界の「チェーン化率」は僅か 5%に止まり、飲食店のほとんどは零細の単店であることが伺われます。零細事業者の経営基盤は不安定であり、飲食店の閉店率は 70%、平均営業期間は 508 日に止まる、というデータもあるほどです。

そうした小規模飲食店にとっては、パンダセレクトが提供するサービスのメリットは、さほど大きくは感じられない場合もあるようです。実際に、シェアリングキッチンを利用して飲食店を開業した人のインタビューを見ても、「各種のサービス費用がかかるばかりで、施策が奏功せず、結局は赤字のまま閉店してしまった」といった声もあります。

パンダセレクトと同じくシェアリングキッチンを運営する「黄小逓」と「吉刻連盟」に対して有識者は「試算によると、テナント飲食店の閉店率は、『黄小逓』が 95~98%に対して、『吉刻連盟』は約 60%であり、この差はテナント誘致の際に『吉刻連盟』が主に大手チェーンをターゲットとしているのに対し、『黄小逓』は夫婦が営む単店が中心のため、そもそもの閉店率が高いせいではないか」と指摘しています。

パンダセレクトの入居テナントについても、実に 70%が成熟した大手チェーンによって占められていると報じられています。また、パンダセレクトの創業者である李海鵬も、公式 HP のインタビューにおいて、「テナント選定の際には、相対的に運営がしっかりしており、食品安全などの問題発生リスクが小さい飲食店を選んでいる」と明言しています。

パンダセレクトの成功と急成長には、時流に乗って新たに出現したニーズを見つけ出した慧眼に加えて、その顧客たるテナント飲食店が本来持っていた実力も寄与していたと言えます。

即ち、パンダセレクトは大手飲食チェーンにとっては、「種々の経営管理を担うパートナー」として機能している一方、そもそもそうした管理が定着していない零細飲食店にとっては、管理費以上の価値を提供し切れておらず、単に「管理費の高い大家さん」という位置づけに止まっているものと理解できます。

 

Ⅲ.「先行事例」としての中国にどう学ぶべきか?

日本のフードデリバリー市場では「ウーバーイーツ」や「出前館」などのプラットフォームが存在感を増し、市場も成長を続けているものの、2018 年時点の市場規模は約 4,000 億円に過ぎず、外食・中食産業全体の 20 兆円に対する比率は約 2.0%に止まっています。これは、中国の 2013 年頃の水準とほぼ同じです。

その意味では、中国は日本の「5 年先」を行っているとも言えますし、今後の市場成長に伴い、日本でもパンダセレクトのようなシェアリングキッチン提供サービスが存在感を増す可能性は十分にあります。

しかし、同じく小規模飲食店が多数存在する日本の外食産業においては、「大多数の飲食店に対しては十分なメリットを提供できない」という問題もまた共通していると考えられますし、それ以外にも、日本ならではの課題が改めて浮かび上がる可能性もあるでしょう。

パンダセレクトの例に限らず、中国を「先行事例」と捉え、その成功体験に学ぶ機会は、今後も増えていくことでしょう。但し、当然ながら、先行事例を盲目的に参照・導入することはできません。

例えば、中国ではゴールドラッシュの「金鉱よりもスコップ」を地で行く toB サイドのサービスが成長する事例が多くありますが、その背景には、「そもそもの市場規模が大きいため、水平分業で規模化しやすい」「B サイド(特に中小企業)のレベルにばらつきが大きい」といった背景があります。

翻って、日本では「中国と比べて市場規模(のポテンシャル)が小さいため、水平分業より垂直統合になりやすい」「中小企業のレベルが相応に高い」といった場合も多いため、全く同じ BtoB サービスでは成り立たない/スケールしない可能性があるのも事実です。

その意味で、パンダセレクトの例は、「その成功要因は何であるか?」「日本でも再現可能なのか?」「先行事例で解決し切れなかった問題は何か?」といった、先行事例に学ぶ際の基本的な分析・検討の重要さを、改めて教えてくれるように思われます。

 

MUFGバンク(中国)経済週報2020年3月4日第445期CDIコラムより

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