中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。
第 16 回の今回はコロナ禍後の中国の化粧品市場で、急成長をつづける「完美日記」(Perfect Diary)の広州逸仙電子商務有限公司をとりあげます。
今年の「618」と呼ばれる中国 EC 商戦日のビューティースキンケアとパーソナルケア分野の総売上高は、434億元。ビューティー部門が、82 億元、パーソナルケア部門が、352 億元となっています。パーソナルケア部門は、L’Oreal Paris、Lancom,Olay などトップは、外資に牛耳られているわけですが、ビューティー部門のトップに輝いたのがこの「完美日記」です。
「完美日記」ブランドを有しているのは、「広州逸仙電子商務有限公司」です。設立されてわずか 4 年ですが、ゴールドマンサックスグループと、モルガンス
タンレーをアドバイザーに指名し、IPO を目指しています。
2020 年 4 月にも、1 億ドルの戦略融資を獲得し、評価額は 20 億ドルともいわれます。2019年に融資を受けた時の倍額の評価額になっています。
出資者には、真格基金(Zhenfund)、弘毅資本(Hony Capital)、高榕資本(Gaorong Capital)、高瓴資本(Hillhouse Capital)などの知名な投資ファンドが名を連ねています。
「完美日記」は、中国ドリームを絵にかいたような企業ともいえます。
2016年に、逸仙電商が設立されました。創始者の一人は、黄錦峰。もともと P&G に在籍していましたが、その後、2013 年に御泥坊(UNIFON)という化粧品ブランドの副総裁を辞したのち、中山大学の学友 3 人で、この逸仙電商をつくりました。これが、完美日記の親会社となります。
わずか 3 年あまりで、急速な成長をとげた「完美日記」は、2017 年 8 月に T mall に出店し、初めての「完美日記」ブランド商品を売り出したのですが、当初は、あまり売れませんでした。次に、Redbook(小紅書)にも店を出すと、消費者への認知度が向上し、ブランドと消費者とのコミュニケーションも増え、消費者はブランドにより親しみを感じるようになったようです。その結果、Tmall の売上は、急増し、2017 年の年末までには、明らかに好転したといえるほどに達しました。2019年末までに、Redbook に 173万アカウントのファンを抱えるに至っています。これ以外にも、微博、抖音などのプラットフォームでも多くの若者からの注目を浴びるようになってきました。
2019 年の 1111 独身の日のセールでは、「ブラックダイアモンドリップ」などの人気商品の売上が貢献し、初めて 1 億元を突破するメイクブランドとなりました。
2017年にTmall旗艦店を開設し、RedBook、微博、抖音などで好評を博したオンラインから始めたこのブランドは、2019 年になって初めてのショールーム型店舗をオープンしました。現在までに、オフラインの実店舗は、200 か所に上ります。オンラインとオフラインを一体としてとらえ、今後 3 年間で、100 都市をカバーし、600 店舗に増やす計画です。
総裁の陳宇文氏は「我々は、オンラインからスタートしたわけですが、改めてオフラインにもどることで、いわいるニューリテールの閉じた環を完成させることができたのです。」といいます。さらに、「現在、オフラインで単独で独立店舗を運営しているのは、ほとんどが海外ブランドの化粧品です。ローカルブランドの店舗は非常に少ない。オフラインは、相対的に重いビジネスです、立地選定から店舗デザインや内装、ユーザー体験の提供、製品ラインの適切な配置など、考えなければならないことが非常に多い。しかし、中国では、オフラインマーケットは成長が非常に活発な市場でもあります、オンラインとオフライン比でいうと、概ね 3 対7くらいの比率になります。オフラインで消費者に提供する体験の価値は、オンラインでは取って帰ることができないほど貴重なものです。」
オンラインでスタートした「完美日記」も、さらなる成功のためには実店舗との相乗効果が必要だというのは、これからの新しい市場参入を考える上では、示唆に富んだ経験だと思います。
ターゲットは、95 後、00 後、いわいるジェネレーション Z といわれるセグメントです。18 歳から 28 歳くらいの女性で、この個性的におしゃれを楽しみたいという若者層の出現により、化粧品ブランドに新たな成長点が生まれました。ちょうど大学か、職場へ入ったばかりの化粧のニューカマーたちの興味や特徴は、必ずしも一つに集まっているわけではなく、いくつものグループが関心事ごとに点在しています。あえて共通項といえるのは、彼らの多くは必ずオンライン上にいるということです。
完美日記のブランディングにおいて最もそれをけん引したのは、小紅書(RedBook)です。その SNS にある完美日記のオフィシャルアカウントには、194万アカウント以上のファンが登録しています。書き込み数は、、15 万件をこえ、露出量は、億を超えます。これはほかのいかなる化粧品ブランドも成し遂げられなかったボリュームです。
彼らが KOL を募集する際も、その KOL がRedbook をどれほど良く理解しているか、さらに、Redbook にどれほどのリソースを持っているかを重視しました。Redbook と完美日記の利用者の年齢層や性別は極めて高い相関を示しています。
業界を超えたブランドコラボも、彼らの特徴の一つです。KOL や、有名人を投入する以外に、ジェネレーション Z たちの興味をひく新しい何かを投入する必要がありました。そんななかで生まれたのが異業種コラボです。
Discovery Channel や、中国国家地理とのコラボでは、美しい自然の景色、その醸し出す色合いを化粧品に重ねました。ビスケットのオリオとのコラボは、美味しいビスケットクリームの色合いを、コンパクトに映しました。
こうした試み自体が、遊び心のあるブランドといったイメージを持たせることに成功したと同時に、これまで興味を持たなかったグループへの接触点を切り開くという意味では効果的なものではなかったかと思われます。
また、彼らのオンラインマーケットで特徴的なのは、集客を Redbook などで、KOL などへの投資をし、Tmallなどのメガプラットフォームで、実際の売買をやり収益を得るわけですが、Tmall で買った顧客に Wechat へ登録させることによって、ブランドと、顧客間にダイレクトなコミュニケーションチャネルを開きます。登録者たちは、リピーターとして極めて濃厚なマーケットの資産となります。このサイクルをうまく運営できたのが成功の鍵ともいえます。
総裁の陳宇文氏は、「我々のこの数年の経験は、まだまだ成功というには程遠い。ただ、やってきたなかで気を付けてきたことは、2 つあります。1つは、顧客にとっての価値にこだわりながら、顧客価値を作り続けてきました。ですから、我々の会社の組織構造は、すべて顧客を中心に形成されてきました。全体のモデルを一言で表現するならば、それは、D2C(Direct to Consumer)モデルです。直接消費者に向かい合います。ネット販売から始めて、ニューリテールの直営店まで我々には、中間のレイア―がいません。加盟店も代理店も、ディストリビューターもありません。すべて直接消費者に面しているのです。
2つめは、完美日記の社員の平均年齢は、25 歳以下で、彼らは同じ会社の同僚でもあり、まだ同時に消費者でもあり、この新世代消費者層のカルチャー、嗜好、ニーズ、それに国産化粧品への要求などを非常に良く理解していて、ですからそれらを我々の製品やブランドのいろんなところに反映させることができるのです。」と話しています。
完美日記の逸仙電商は、新たな挑戦として、新ブランド「完子新選」(AbbysChoice)をスタートします。「完美日記」と異なり始まりからオンライン、オフライン双方を連動させるモデルでオペレーションするようにつくりました。2018 年から開発をはじめたわけですが、その初期のモデルは、C2B に近いものです。広く消費者の意見やニーズをききながら、特に、95 後、00 後と言われる消費者をターゲットにスイートポイントを探ってきました。
何度もトライアルを繰り返し、満を持してようやく上市したものです。陳総裁は、「我々の目指すオンラインオフライン連動モデルの目標とするのは、我々の顧客がオンラインであっても、オフラインであっても、またどのような時間や場所であっても、どのような角度や、切り口からでも製品に関するサービスを受け取ることができる状態を作るということです。」「完子新選」の提供しようとするワンストップでのビューティーケアサービスが、完美日記のような神話を生み出すかどうかは、これからのマーケットの評価が待たれるところです。
オンラインから始まって、実店舗も展開する「完美日記」は、オンラインスタートブランドの成功モデルとして注目されることになると思います。自社の戦略に重ねて、さらなる研究を進めてみるのも良いのではないでしょうか。
参考文権: Growthbox/微热点WRD/趣哥趣生活/广告日志/《中国企业家》等
MUFGバンク(中国)経済週報2020年7月28日第462期CDIコラムより
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