PERSPECTIVE

2020年09月28日

中国企业透视(18)猿辅导

作者:

中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。

今回は、前回取り上げた老舗教育サービス企業の「新東方」に対し、オンライン中心に急成長を遂げている「猿辅导(Yuanfudao)」を取り上げたいと思います。

 

Ⅰ.最も投資資金を集める教育スタートアップ

ご存じの通り、中国ではオンライン教育市場が過熱しています。中国大手インターネット調査会社i-research(艾瑞咨询)によれば、2022 年には中国国内オンライン教育市場は 5,400 億元に達すると推計されています。そのうち、特に注目されているのは K12 市場(保育園から高校までの 12 年間の教育期間を対象とする市場)であり、790 億元を占めると言われています。

この K12 市場において、ベンチャーキャピタルから最も熱い視線を送られているのが「猿辅导」です。創業は2012 年ですが、それ以降、ほぼ毎年のように出資を受け、2020 年 3 月には 10 億ドル、8 月には 12 億ドルの出資を受けています(図 1 参照)。

いったいなぜ、彼らは、投資家たちにここまで愛されているのでしょうか?

 

Ⅱ.注目の背景:「インターネット」ではなく「デジタルテクノロジー」で教育を変える

猿辅导は、ネットイースの技術者だった郭常圳が、同じくネットイースで働いていた李勇に声を掛けて、2012年に創業したスタートアップです。彼らの特徴は、創業の当初からデジタルテクノロジーに注目していた点です。例えば、郭は、創業後半年間かけて人工知能系の技術者を数名集め、人工知能研究室(AI LAB)を設立しています。

デジタルテクノロジーを大切にする彼らは、当時のオンライン教育の潮流に対して、不満を感じていました。

当時のオンライン教育といえば、①教育系の老舗「新東方」等が、オフラインの授業を補う形でオンラインを活用するもの、②逆にオンライン系がオフラインでの授業も行うもの、③テンセント等の大手プラットフォーマーが、オンライン授業のサポートツールを提供するもの、に限られていました。いずれも、「情報の非対称性」をインターネットの力で解決するものです。

こういったサービス内容は、地理的に広大であるものの北京・上海等に教育資源が集中する中国において、大きな支持を得ていました。しかし、教育を「コンテンツ」と「デリバリー」に分けて考えるとすると、いずれも「デリバリー」部分に着目したサービスであり、「コンテンツ」には触れていません。実際、新東方の創業者である俞敏洪は、オンライン教育はあくまでオフラインの補助的なものであり、生徒の集中力の持続性などの教育効果についてはオフラインの方が圧倒的に良い、と語っています。

このような中、「デリバリー」ではなく「コンテンツ」について、デジタルテクノロジーで品質を更に向上できるのではないか?と考えたのが、猿辅导の創業メンバーたちです。彼らは、AI 等のデジタルテクノロジーを使って教育を変えることを目指します。例えば、生徒の学習データを蓄積すれば、何が弱点なのか、どういった時に間違えやすいのか等を、客観的かつきめ細やかにフォローすることが可能です。かつ、それを大勢の生徒に対して実施することもできます。

「インターネット」ではなく「デジタル」。この 1 点において、多くのオンライン教育スタートアップと異なる道を進んだことが、ベンチャーキャピタルから注目されるようになった要因だと言えるでしょう。

勿論、「言うは易し、行うは難し」であり、教育の質をデジタルで改善していく、というのは簡単ではありません。創業メンバーたちも、何度も方向転換しながら自分たちのビジネスモデルを作り上げていきます。数多くある試行錯誤の中から、重要なポイントを 3 つ挙げさせていただきます。

1:プラットフォーマーではなくサービサーへ転換

彼らが最初に行っていたサービスは、「猿题库」というプラットフォームでした。この中では、数多くの先生や学生が、プラットフォーム上に問題を提供し、それを生徒が回答します。正答率や所要時間等のデータを記録していくことで、問題の品質と生徒の成績の双方を向上させるサポートが可能です。幸いなことに、ユーザー数も先生の数も拡大していくのですが、特に先生について、品質のコントロールができない、という問題にあたりました。また、多くの先生たちが似たような授業を提供している場合、生徒からすると、選択が非常に難しいという問題もあります。通常の、モノのプラットフォームであっても偽物の問題は起きてしまうのですが、目に見えない教育サービスのプラットフォームであれば、なおさら管理が難しい。結果、猿辅导は、自ら教師を採用し、サービス品質を標準化することに成功しました。

2:コスト構造の転換

先生を自ら雇用するようにした結果、サービス品質は向上しましたが、同時に、コストも増加してしまいます。この、品質とコストのバランスは、教育ビジネスにとって昔からある課題です。例えば、オンラインで録画した授業を多くの生徒に流すのであれば、生徒一人当たりコストは大幅に低減できますが、生徒の集中力は下がりやすく、教育効果は大きく下がります。逆に、オフラインで 1 対 1 の個別指導を行えば、オーダーメイドで生徒に合わせた手厚い授業ができますが、その分コストが高くなります。

猿辅导は、この課題を、先生+ティーチングアシスタントの組み合わせでサービス提供する形で乗り越えました。授業自体は先生が行うのですが、授業終了後の質問受付や、保護者からの相談等は、ティーチングアシスタントが請け負います。これにより、先生は授業に集中できる上にこまごまとしたやり取りに時間を取られることがありません。企業としては、先生の人件費を無駄に使わずにすみます。

3:双方向性の実現

オンライン授業の最大の課題は、「新東方」創業者が指摘する通り、生徒の集中力の維持です。一方向かつ先生から生徒が見えない状況では、生徒はどうしても注意が散漫になってしまいます。この点について、猿辅导は、ライブコマース等で行われている「投げ銭」に類似する機能を備えることで解決しました(図 2)。下図の通り、発言も可能な設計になっていることに加えて(要麦发言)、問題に正解した場合など、ポイント付与される機能が実装されています(金币激励)。

このように、「デジタルで教育を変える」という基本コンセプトは守りつつ、ビジネスモデルや機能を柔軟に変えていくことで、猿辅导は、現在売上高 30~40 億元、従業員数 1.5 万人にまで成長しました。「初志貫徹」と「臨機応変」という一見すると矛盾するような姿勢を貫きながら、着実に成長を続けているという点も、高い評価を受ける理由と言えるでしょう。

 

Ⅲ.将来の展望と着目すべき事項:多くの失敗事例を乗り越えることができるか?

以上、猿辅导のこれまでの歩みを追うことで、中国オンライン教育業界の進化を見てきました。一見、順調に見える猿辅导ですが、課題も残されています。それは、ユーザーの継続的な獲得です。

猿辅导は、2020 年 1 月に、自社のユーザー数は 4 億人を突破したと発表しています。しかし、2019 年 11 月には 2.5 億人という発表もあった中で、いくらコロナウィルスの影響があったにせよ、この短期間で 1.5 億人も増やせることができるのだろうか?といった疑問も上がっています。

一説によると、オフライン教育の世界ではユーザー獲得コストが一人当たり 7-800 元程度であるのに対して、オンライン教育では7-8000元程度必要、と言われています。実際、大手企業の広告投資合戦は過熱しており、例えば夏休みのような「かき入れ時」において、猿辅导と、競合の学而思・作业帮の 3 社の広告投資は、1日あたり数千万元に達している、との情報もあります。

こういった情報に既視感を覚えるのは、筆者だけではないでしょう。配車サービス、シェアリングバイク、最近ではラッキンコーヒー等、「烧钱」でユーザー数を短期的に増やしたものの、その後の収益化に失敗したことで消えていった企業は、中国において枚挙にいとまがありません。今回も、同じような形で進んでいくのか。それとも、そうならないような新たなビジネスモデルが生まれるのか。オンライン教育バブルと言われている今だからこそ、そのような冷静な視点が求められているように思います。

 

(参考記事)

・第一财经(2020 年 3 月 31 日)「猿辅导完成 10 亿美元融资,G 轮融资折射行业漫长」

・虎嗅(2020 年 4 月 7 日)「78 亿美元估值,猿辅导凭什么?」

・子弹财经(2020 年 4 月 19 日)「猿辅导“输血”10 亿美元,在线教育战火再升级」

 

MUFG バンク(中国)経済週報2020 年 9 月 22 日 第 470 期CDIコラムより

想获得更多详情、请点击

联系我们