PERSPECTIVE

2020年10月28日

中国企业透视(19)泡泡玛特

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中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。

第 19 回の今回は 2010 年に設立された北京泡泡瑪特文化創意有限公司をご紹介したいと思います。(https://www.popmart.com/home)

 

Ⅰ.ポップカルチャーアミューズメント企業

この会社を一言で表現すると「ポップカルチャーアミューズメント」会社とでもいうのでしょうか。泡泡瑪特(POPMART)の主力製品は、「盲盒」(中身の見えない箱)といわれる小さな箱、中には、シリーズにあわせたコスチュームと姿をしたスチロール製の小さな人形が1つ入っています。
1 ケース 59 元程度。1 シリーズは、12 種類のキャラクターが一つのセットとなりますが、それ以外に、1つから 2 つのレアものと呼ばれる隠れキャラがあります。

現在、オフラインの直営実体店は 100 店を超え、1000 台を超えるロボット商店といわれる自販機を有します。中国 63 都市をカバーし、香港、台湾、欧米、東南アジア、オーストラリアなど 22 の国と地域に拡大しています。2019 年のTmall の独身の日のセールでは、売上 821 万元を記録し、Tmall 玩具部門で、トップとなった。 当社は、2020 年 6 月に香港市場への上場(H01378.HK)を申請し、噂では、今年の年末には上場を果たすとも言われています。実は、日本にもこの 9 月に上陸を果たしました。(https://popmart.co.jp/)


POPMART 社の始まりは、ハイテクでもなく、オンラインで火が付いたものでもなく、どちらかというと、ちょっとおしゃれな雑貨屋さんといった雰囲気で、地味にスタートしています。創業者は、現在、CEOで33歳の王寧氏。2009年大学を卒業後、一時期、新浪で働いていたこともありますが、自分で事業を起こしたいと考えていました。香港を旅行しているときに、LOG-IN というショップで、おもちゃ、化粧品、文具といったものを売っているのをみて、大陸でもこれに似たショップは、成功するのではないかと考えました。

2010 年、彼は大学時代の仲間を集めて、北京中関村の近くのショッピングモールに、POPMART という店を出し、当初は、LOG-IN と同じように、おもちゃ、化粧品など他社のブランドを集めていろんな商品を売っていましたが、なかなか収支がバランスしません。あるとき、当時ある一つの商品だけの売上が上がっていくようになりました。それは、日本の Dreams がデザインした Sonny Angel で、その売上だけが突出し、一時は、売上の 30%を占めるまでになっており、市場ニーズがどこにあるのかに気づきました。王寧氏は、「あの時、最も良く売れたのはおもちゃ類だったんです。そこでそのほかの商品を売るのをやめて、2014 年からは、玩具に専念するようになりました。」と、当時を回顧しています。さらに、日本のガチャガチャ・カプセルトイにヒントをえました。透明のカプセルに玩具が入っていて、器械を回すといろいろなおもちゃがでてきますが、何がでてくるかわわかりません。ちょっとしたワクワク感にもう少しおしゃれなパッケージをデザインして、生まれたのが、「盲盒」(中身の見えない箱)でした。

2016 年、香港のアーティスト王信明(Kenny Wong)氏が、王寧の事業に参入しました。彼の代表的な作品は、Molly という人形で、奈良美智の描く女の子似の大きな目をした金髪の少女には、すでに多くのファンがいました。王寧氏は、Molly を POPMART のシリーズに加えました。このころから成長に勢いがでてきます。2017年に 1.5 億元、2017 年には、5.1 億元を達成し、POPMART のキャラクターも、数十のシリーズに拡大していました。

 

Ⅱ.成長の鍵は、デザイナー発掘とチャネル形成

彼らの成長のカギは、デザイナーの発掘とチャネル形成だと言われています。
(デザイナー)キャラクターには、IP の取り扱い方により 3 つの種類に分かれます。一つは、自社 IP といわれる自社でそのラインセンスを所有しているものです。Molly、DIMOO,BOBO&COCO、YUKI がそれです。つぎに、独自に発掘したデザイナーと独占契約を締結している独占IPがありPUCKY,The MONSTERS,SATYR RORY などがそれです。さらにラインセンスの非独占 IP のミッキーマウス、DESPICABLE ME,HELLO KITTY などです。

売れるキャラクターデザイナーをいかに発掘するかは、この会社にとっては成長のキーファクターです。いまでは社内に 20 人ほどのデザイナー発掘チームを有します。

オンラインでは、「葩趣」コミュニティーを、オフラインでは、ポップカルチャー玩具展示会などを開いて、デザイナーたちとの接触機会を広げています。
2017 年、王寧氏は、はじめて北京でポップカルチャー系のおもちゃの展示会や、展覧会を開催し、若く才能のあるデザイナーたちにアピールしました。「我々は、消費者の傾向に関するアドバイスはできますが、同時に、デザイナーたちの考えを尊重します。」

というように、あくまでもデザイナーたちの考えを軸にキャラクター発掘を進める姿勢は、多くの若きデザイナーたちにも支持されているように見えます。現在すでに、350 人を超えるデザイナーたちと緊密な関係を保っています。

デザイナーとは、EC の販売推移データや、審美性傾向分析などを経て、発掘したデザイナーと契約します。
デザイナーが提供するのは、原案と、デッサンだけで、そこから具体的なキャラクター人形に仕上げていくのは、POPMART のデザインチームになります。いまのところ、こうしたキャラクター開発の努力は、報われていると言えるでしょう。

(チャネル構築)
2020 年 9 月時点で、POPMART の実体店は、全国で 114 店になります。一時は、150 店を超えましたが、コロナ禍で、実体店は、減少しました。彼らの実体店の内装設計にはこだわりがあります。「我々の店舗デザインは、この 10 年の経験の蓄積ともいえます。この小さな空間にたくさんの違ったシリーズの人形を並べるわけですから、そこには多くの時間を割きました。」と王寧氏がいうように、陳列台の高さ、照明のワット数にいたるまで細かく設定されています。

店舗に並んで、彼らが力を入れているのは、ロボット商店といわれる自動販売機です。2020 年 8 月末で、全国での設置台数は、すでに 1000 台を超えたと言われています。このロボット商店は、ショッピングモールの片隅に配置されるばかりでなく、空港、地下鉄、オフィスビルなど、客流のあるあらゆる場所に置かれようとしています。

一方、ネットでは、Tmall と、JD に専門店を構え、コロナ禍の期間も、売上の 33%を保持したと言われています。

オンラインであれ、オフラインであれ、POPMART は、自社のサイトへの登録会員を集めています。その会員数は、2019 年末で、すでに 320 万人。現在では、400 万人ともいわれます。これら会員のうちリピート率は、58%にもります。

販売の過程で、得られた顧客データは、濃度の高い顧客資産となり、さらにそのかなでもディープなファンが、さらにより多くのファンを呼び寄せるというサイクルが生まれているように見えます。

直営ショップ、EC 店舗、ロボット店舗を合わせると売上の 90%にもなりますが、コントロールされたチャネルは彼らの強みとなっています。

 

Ⅲ.中国のポップカルチャーという市場を考えるヒントに

当社に対する評価として、投資家たちは、中国のポップカルチャーという領域の成長性を低く見積もっていたという意見や、当社の現在の成長は、あくまでも先行者利益で、これから類似品などによる大きな競争にさらされるというネガティブな意見も聞かれます。たしかに、コロナ禍以降の今後の行方は、不確定要素が多いところだと思います。

しかし、ポップカルチャーデザインや、キャラクターを用いたビジネスモデルを形成したという意味では、非常に面白い事例だと思います。中国では、すでにこうした市場に多くの消費者、資金が集まっているということだと思います。こうした分野にたくさんの資産をもつ日本にとっても POPMART が、中国市場参入を考えるヒントになればと思います。

MUFGバンク(中国)経済週報2020年10月27日第474期CDIコラムより

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