中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受け、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えており、そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されている。本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたい。
第21回は、中国でも環境問題や、循環型の経済への注目が集まる中、リサイクルを運営するプラットフォームがいくつも生まれている。今回は、古本の売買を主とする「多抓魚」を運営する多抓魚(北京)科技有限公司である。
一言でいうと、中国の「BOOKOFF」。主として古本売買を運営するプラットフォームだ。
実は、古本のリサイクルで、最も大きいサイトは、「孔府子旧書網」である。しかし、なぜか若者たちに聞いてみると「多抓魚」に人気がある。2018 年にテンセントから 1 億元の融資を受けたあたりから、注目度が上がっている。
リサイクルサイトは、古本以外に、以前から数多く存在する。「転転」「閑魚」といったサイトは、日用品から、賃貸住宅まで幅広く扱っている。これらの多くは C2C 取引支援である。個人間の取引を支援しているという位置づけだ。しかし、この多抓魚は、C2B2C モデル、つまり、一旦は、プラットフォーム側が、ユーザーから買い取って、品質、価格を調整し、再販する。自社で一旦買い取ることで、リスクをとり、付加価値を付けている。
(成り立ち)
2017 年、多抓魚が誕生したのは、微信グループチャットサイトの中。もっとも初めのユーザーは、この創業者と、その友人たちであった。当初、本当にこのようなビジネスモデルがなりたつのかという検証に多くの時間を割·き、取引したユーザーからのフィードバックをもらいながら、少しずつ修正を加え、プラットフォームを完成させていった。こうした微信グループチャットでの検証で分かったことは、古本市場に実質的なニーズがあるということ、また定価の 1 割で引き取って、3 割で売るというモデルであれば、多抓魚の取引は成立するという仮説が導き出された。2018 年ころから、古本サイトのユーザーの間で人気がではじめ、有名人が微博などでお薦めするようにもなり、テンセントから 1 億元の融資を得るところにまで成長。
現在、3月末時点でのアプリダウンロード数は、約100万件。微信のオフィシャルサイト(公衆号)登録ユーザーは、200 万。毎日約 2000 冊以上の本が売れ、年間では、約 100 万冊ほどになるという。現在、年間売上は、1 億元を超えたところで、すでに損益分岐点を超えたといわれている。
ちなみに、多抓魚という名前は、そのままの意味だと「たくさんの魚を捕まえる」ということになるが、音読みをすると、DejaVu(デジャブ:既視感)という発音と似ていて「どこかでかつて出会ったような」という意味を重ねている。
(投資家たち)
設立当初から、エンジェルの資金を得て立ち上がり、同年末には、シリーズ A で 3000 万元の資金を得ている。2018 年には、テンセントからシリーズ B の融資を受けている。
多抓魚の提供する中心となる価値は、確実な取引を効率的に完了することだ。売り手にとっては、利用しやすく買い手は安心して買えるとうことだが、そのためにまず、多抓魚が取り組んだのは、取引プロセスの標準化だ。
売り手側は、売りたい本があれば、アプリで、その ISBN 番号を読みとると、その買取価格を知ることができる。同じアプリ上で、予約をすると宅配業者が、自宅まで本を引き取りに来てくれる。回収した古本は、殺菌処理し、無菌包装をし、統一価格で、市場に出るように手配されている。
試しに手元の本の ISBN ナンバーをスキャンしてみた。すぐにその本の買取価格が表示される。左図の例だと、「品三国」は、0 円。「図解山海経」は、定価の 1.5 割の 10.20 元となる。あとは、表示に従って本の引取予約をするだけだ。普通の宅配便と同じように、荷物を引き取る宅配業者が指定された場所と時間に本を引き取りに来る。
「定価」決定は、コンピュータにより自動化が進められている。「買い取るか、買い取らないかの判断プロセスは、人間の対応を機械が学習している途上です。いくらで買い取るかというのは、多抓魚が、経済学的な原理に基づき作り上げた計算モデルによります。この計算モデルは、多抓魚でなされたすべての取引を一つの市場とみなして、その需給関係と質に基づき、その取引時点で最もふさわしい価格を導き出します。」(多抓魚創業者 猫助)
こうしたプロセスの標準化は、例えば、作家の署名入り本かどうかといった特殊な価値を考慮しないといったことも起こる。しかし、多抓魚は、署名があるかどうかということは、その本の内容の価値との比較においては、極めて小さいものだと考えているようだ。むしろ、そういう価値を排除し、本だけを純粋に売買することに専念し、単純化している。
数多くあるリサイクルサイトの中で、若い読書人たちからこのサイトが注目されるのはなぜだろうか?安くて、お手軽だけというわけではないようだ。「多抓魚は、単純に値段で勝っているとは思いません。私たちは、優れたサービスでこの市場を守っていきたいと思っています。それに自殺的な拡大というのも興味ありません。あたかもご縁があればねといったような売り方ですが、しかし私たちの欲しいのは、我々のその部分に共感してくれるような顧客だけなのです。売り手は、これまでの面倒なやり方を省くことができて、自分の本が誰かにまた読んでもらえるという成就感を味わえます。買い手は統一基準で品質が保証されて、とてもお得で、明朗価格で模倣品でない本物の書籍を買えて、ときには古本ならではの楽しみを見つけられるというものです。多抓魚は、便利で、品質が良くて、人情味があるものだと思われることを望んでいます。ただの低価格ではないのです。」(創業者 猫助)
多抓魚の基本的機能は、古本の売買だが、「売り手には、安心して売れるように、買い手には、喜んで買ってもらう。」ことを大事にしており、そのために絶えず変革している。
多くのオンラインサイトは、流量を稼いだり、ユーザーたちをより多く、長くサイト内に滞留させるために、コミュニティーを設けて、ユーザー同士の情報交流を進めている。多抓魚も同じのように、コミュニティーを一つのツールとしている。
「コミュニティーに関する考え方は、ユーザーが単純に増えると、場の意味合いがぼやけてしまう、まるで、成長のパラドックスともいえる惨状だが、猫助が考えるに、ユーザーがお気に入りの小さな『集まり』の枠を見つけさえすれば、ユーザーの拡大は、そのそれぞれの小さな集まりの拡大であり、その小さな集まりの中であれば、ユーザーは、より簡単に満足を感じることができる。」(創業者 猫助)という考えだ。つまり、ユーザーの拡大が、大きなスイカのような姿をして拡大していくというよりは、ブドウの房が、より大きくなるといったイメージのようだ。房についたブドウの実一粒一粒が、テーマや興味であり、そこに集う人たちは、同じそのテーマに極めて高い共鳴をする、というものだろう。特徴的な本の分類と、その興味や方向性によって名付けられた一風変わった「書籍リスト」が、こうしたコミュニティーを形成している。
どんなユーザーたちが、このサイトの住人なのか?Wechat の公式アカウントの登録者の状況から見ると、男女別では、男性 56%、女性 44%程度で、それらのライフスタイル属性は、オタク、主婦、おしゃれ族、スポーツ族、で年齢は、30 歳から 34 歳が最も多く全体の 3 割を占め、次に多い 25 歳から 29 歳の層の 29%を合わせると、65%がこの年齢層となる。
ちなみに、弊社内で、「多抓魚」知っている?と聞くと、ぴったりこの年齢層で、知っている人と知らない人が分れるほど、ターゲットが鮮明だ。
(これからの成長)
多抓魚の拡大の方向は、2つ。一つは、オフラインの実体店の運営、もう一つは、取り扱い商品の拡張だ。実体店は、1 店舗目が、北京に開設され、今年 10 月には、上海にも実体店が開設された。ターゲットである読書趣味人たちの好みに合わせたものにみえる。
商品のラインナップでは、電子製品への模索が見える。1つは、中古の Kindle で、もう一つは、中古のbluetooth ヘッドホンだ。新品の約半値以下で販売している。
また、今のところ上海エリアのみで、販売はしていないが、衣料品の買取も始め
ている。実体店も、衣料品もまだどちらかというと、テスト中といった印象ではあるが、古本繋がりの読書趣味人たちに受け入れられながらジワジワと展開しているようにみえる。
2017 年に生まれたばかりのこのサイトは、若者に注目され、数ある同業者の中でも、他とは違う形で成長しているようにみえる。そこには、絞り込んだ狙うべきターゲットの顧客群たちからの共感を受けながら成長していくプラットフォームの姿が見える。共感してくれる顧客をいかに失望させずに、楽しみ続けてもらえるか。複雑にならず、後味も悪くないなど、読書趣味人たちのありとあらゆる心の行方を追いながら、「共感追及」×「満足取引」=利益という戦略で、ビジネスが組み立てられている。
自分のサービスに共感してくれる相手は誰なのか?その彼らはどんな人たちなのか?を深く理解するという出発点が、成功へと導いているようだ。一度、アプリを動かして、様子をうかがってほしい。
参考記事:「文学報」「人人都是産品経理」「胖鲸头条」
MUFG バンク(中国)経済週報2020 年 12 月 22 日 第 482 期CDIコラムより
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