PERSPECTIVE

2021年01月28日

中国企业透视(22)茶颜悦色

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中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受け、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えており、そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されている。本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたい。

今回は、競争の厳しいティーショップ業界で「茶顔悦色」を運営する湖南茶悦餐飲管理有限公司である。

 

Ⅰ. 国潮ブランドの「茶顔悦色」

ここ数年「国潮」という言葉が良く聞かれるようになった。これまで中国の消費者の中には、良いものは外国のブランドで、国産ブランド品は、それに劣るというイメージがあったが、そうした考え方が大きく変わってきている。さらに、商品そのものや、デザインに、中国の伝統的なデザインを取り入れることにも積極的になった。実際、中国国内で、国産ブランドに対する評価も上がってきており、昨今のコロナ禍においてそれは加速しているようにも見える。「茶顔悦色」もそうした「国潮」を代表するティーショップだ。茶顔悦色創業者の呂良氏は、その構想過程で、すでに先行する喜茶や、Coco 都可は、可愛い漫画的なキャラクターのイメージですでに認知されていることから、同じようにやれば、失敗するだろうと考え、であれば、いっそのこと、ほとんど当時誰も手を付けていない中国風の要素を取り入れてみではどうか?とそのときから差別化路線を考えていたという。

実際、茶顔悦色のロゴマークは、中国の伝統的な雰囲気をもつ女性がモデルだ。また、店舗デザインや、物販品、カップにまでその雰囲気を漂わせているのが特徴だ。それは中国の伝統的なお茶をベースにした新しいモダンなお茶を提供する店というコンセプトにあわせたものだ。古風な絵は、わざわざ故宮から版権を買って使っているといわれる。

「国潮」の流行のなかで取り扱われることの多い「茶顔悦色」ではあるが、企業戦略的に見るとそれは、中国、長沙で地域一番店のドミナント戦略で成功した会社でもある。長沙での成功を礎に、漸くこれから武漢と常徳へ展開しようとするところである。(ドミナント戦略とは、チェーンストアなどが、ある地域に集中的に出店して、そのエリアでの独占状態を得ようとするものだ。)

 

Ⅱ. 「茶顔悦色」のドミナント戦略

上海でも、街を歩いていてよく目につくミルクティーショップというと「1點點」「CoCo 都可」などがあるが、彼らは、上海のみならず全国に展開している。 その様子を、うまく現した DT 財経の図を参照すると、全国の店舗数、カバーする省、カバーする都市の数は、「1點點」が、30 省、216 都市に 2952 軒、「CoCo 都可」29 省169 都市に 3942 軒となる。「茶顔悦色」はそれに比べて、そもそも横に並べて比べるのもおかしいと思えるほどだ。

ところが、一方で、長沙における店舗数だけが他と比べて突出している。CoCo都可が、101軒、「1點點」が、99 軒に対して、茶顔悦色は、225 軒。しかも、「天心区」「岳麓区」「美蓉区」はとりわけ集中しており、3 エリアを合わせると、142 軒にもなる。

もちろん、こうしたドミナント戦略を成功させた主たる要因は、サービスを含めた商品力であり、とりわけ、顧客中心主義をつらぬいた姿勢が評価された結果ともいえる。

全国区でトップブランドの喜茶で人気のドリンクの値段が、30 元前後なのに比して、茶顔悦色のそれは、15 元元程度というコストパフォーマンスの良さは、とりわけ魅力的なのだと思われる。

顧客サービスの良さも、たびたびネットに露出している。すべての店舗が直営店であることも均一に良質の顧客対応が維持できる要因であろう。

自社の微信公式アカウントには、提案や批判の窓口が設置され、メディアなどでネガティブな記事やうわさが流れると、即座にそれへの対応メッセージを発表するという広報活動も徹底している。同社のサイトには「安全報告」として、消費者からの指摘を写真入りで発表し、それへの対応を明記している。「カップに記載されている分量と、実際の分量が違う」「レモン汁絞り器が汚れている」「蒸気の吹き出し口が錆びている」「飲み終わったらカップの底にプラステックの棒があった!」など、どの店でも良くある話を、包み隠さず公表して対応していることなども顧客の好感度を上げている一因だろう。不具合や、顧客の都合で飲めなくなった、或いは美味しくなくなったドリンクを無条件に交換してくれる「永久もう一杯請求権」というサービスも喜ばれている。

(ローカルブランドなのに全国で有名に)

長沙での評判が、口コミの展開や、ネット上でのユーザー評価を通じて拡散し、長沙だけで成功している物凄く長沙なブランドにもかかわらず、NCBD(餐宝典)の発表している『2020上半期 中国で最も消費者から歓迎されている茶飲料ブランドランキング』では、トップの「喜茶」につづいて、堂々第二位にランクインしている。

今回、90 ポイント以上を出した「喜茶」、「茶顔悦色」及びぎりぎり 90 には届かなかったが、3 位の「奈雪の茶」は、トップグループといえ、第 4 位を大きく引き離しているのが特徴的だ。

これにとどまらず、第一財経YiMagazineの主催するコンシューマーブランド嗜好性調査において、茶顔悦色は、2019 年、2020 年ともにトップに輝いている。多くの中国全土にまたがる茶飲料ブランドを抜いてである。

(経営者の横顔)

長沙でドミナント戦略を展開し、全国区でも名声を得た経営者はどんな方だろうか?

創業者の呂良氏は、生まれも育ちも長沙の長沙人。1978 年生まれ。2000 年に長沙電大漢語言語文学専攻を卒業し、国有企業に就職し、2002 年から兼業で、広告企画の仕事を始めた。当時、古風な風合いの企画案などもつくったこともあるとか。2008 年、企業を辞職し、起業。しかし、その道のりは苦難の連続、広告会社をやったり、ポップコーンを売ったり、ティーショップの加盟店になったりと。いろんなことに挑戦をしたものの、上手く行かずに、短いものでは、1 ヶ月で倒産したこともあったという。それでも「失敗には本当に感謝している。
何度も失敗して、何十万元も損をして、もう最後の一息しかのこらないところまできたが、この茶顔悦色をやるときには、何をすると失敗するかが良くわかっていた。おかげで、細部までじっくりと考えた。」実際、それまでの苦労が実って、茶顔悦色が生まれたとも言える。慎重に、1 年以上の時間をかけ、計画を立てたという。

現在では、長沙に 8 つのコンセプト店、200 数十の直営店を構えるまでになった。呂氏は、「全体の損益より、単店損益を重視している。」という。「直営店なので、なるべく店舗当たり利益がでるようにしている。しかし一部の店は内装や、家賃が高額になり、利益率が下がってしまう。もし、1 つの店で損が出ると、3 つの利益のでている店で支えなければならなくなる。開店よりも、閉店こそが本当の腕の見せ所なんですよ。いかにして利益のでない店を、思い切って閉めるか、そのときこそ経営者の知恵が試されるのですよ。」

なぜいつまでも長沙からでなかったのだろうか?呂氏は「度胸がなくてね。いつまでたっても拡大できずにいた。ただ、もっと深い理由は、組織力とサプライチェーンとインフラ構築に磨きをかけるのに時間がかったということ。同じ街に店を開くと、そこの人たちと固定的なつき合いが生まれるわけですが、であるから我々は、このお茶をもう一回買ってもらえるかが勝負、今日美味しくても、次の日は美味しくないとか、今日は笑顔をもらえたけど、次の日は冷たくされたら、長くは続かない。ですから、多くの時間を組織という課題に費やさざるをえませんでしたし、解決しようと努力してきました。もしこの組織力がなければ、茶顔悦色は、すぐにつぶれていたでしょう。ただ、この組織管理という課題に対して、一つの標準的な解答はなくて、おそらく永遠にすり合わせしながら磨き上げていかなければならなくて、それがより良くできるかどうかだと思いますね。」中国での組織管理は、中国企業にとっても頭の痛い問題だ。茶顔悦色の成功は、その課題に、時間をかけて向き合ったことによるものかもしれない。「組織力」は、日本企業の得意とするところだが、こうした中国の経営者の姿勢には、深く共感できるのではないだろうか。

 

Ⅲ.1 地方都市で「組織力」をコアに成功を収めた成長モデルで全国へ

組織力で、顧客サービスを充実させ、その評判がネットで拡散し、評判が評判を呼び、長沙にしかないのに、全国で知名度を上げた茶顔悦色。その設立は、2013 年、長沙。2015 年にブランドとして商標登録し、長沙の中心部に展開、2017 年に、40店舗、2018 年には、急速に店舗を拡大し、2019 年 3 月には、天図資本から数千万元のシリーズ A 融資を受けている。さらに、7 月には、原生資本と、源碼資本の戦略投資を受け、同年 8 月には、アリババ系の投資を受けている。2020 年、ついに、長沙のみにとどまっていた「茶顔悦色」は、武漢と、常徳に展開した。

店舗形態も、スタンダード店から、コンセプト店(活字、別有洞天、好多魚、方寸間桃花源など)、テイクアウト店、新小売店(茶顔游園会)、 ブランド連携店(三頓半ブランド)と進んでいる。ちなみに、海外展開について呂氏は、「まず、自分はすごく保守的な人間ですから」として、まずは、中国の「国潮」の波にのって、今は真のブランドを形成する時期だとし、充分に機が熟してからだと考えているようだ。

呂氏は、このコロナ禍について「コロナ禍は、企業にしてみれば全国統一試験のようなものだ。試験問題は、すべて同じ。上手く解けるかどうかは、それぞれ自身の問題だ。茶顔悦色は、コロナ禍対応で、組織や戦略の転換が割りと早かったと思う。コロナ禍が常態化している今、みんなが苦しいのだけど、誰がより上手くやれるかだ。」とも話している。新しい状況に適応するためにいかに変革するか、中国でもその模索は続いている。

 

参考記事:飯卓君、21 世紀商業評論、電商在線官方、小資家、DT 財経

 

MUFGバンク(中国)経済週報2021年1月19日第486期CDIコラムより

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