中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。
第 3 回は、昨年のナスダックへのスピード上場でも話題になった、「社交電商(コミュニケーション EC プラットフォーム)」の「拼多多(Pinduoduo:ピンドゥオドゥオ)」を取り上げたいと思います。
「拼多多」とは、浙江大学出身で米国の大学院を修了し、グーグルでの勤務経験もある黄峥氏が中心となって設立した ECプラットフォームです。その運営企業である上海尋夢信息技術有限公司は2014年に設立されたのですが、元々はウェブゲーム開発等を主な事業とする会社でした。そして「拼多多」は、2015 年に社内プロジェクトとして立ち上げられたと言われています。
他の EC プラットフォームと拼多多が大きく異なるのは、購入の際に他のユーザーと共同購買すると、低価格で購買できるという仕組みです。この「グルーポン」を彷彿させる販売方式が差別化要素となり、拼多多は急成長。設立から 2 年弱が過ぎた 2017 年の時点で、年間流通総額が 1,000 億元を超えるところまで拡大しました。年間流通総額 1,000 億元というのは、淘宝網が達成までに 5 年、京東が 10 年かかった規模ですから、拼多多の成長の速さが伺えると思います。また、2018 年にはナスダックに上場しましたが、その際の時価総額は約 296 億ドル。たった 3 年で、3 兆円を超える規模の企業が誕生したということで、当時は大きな話題となりました。
一方で、拼多多を語る際に外せないのが、コピー商品の氾濫です。携帯電話やテレビ等は言うに及ばず、一時は自動車のナンバープレートの偽物まで出品されていた等、様々なコピー商品が販売されるプラットフォームとしても知られています。ナスダック上場の直前にも、ある著名紙おむつブランドの偽物が販売されているとして、アメリカ国内で訴訟されるなど、上場企業として運営するにあたって難しい問題を抱えています。
このような急拡大とコピー商品の氾濫は、往時のタオバオを彷彿させます。実際、タオバオをアンインストールした後に「拼多多」を使うユーザーは 50%程度という調査結果もあります。あたかも、「浄化」が進んだタオバオの顧客を奪って成長しているようです。ユーザー数の成長が鈍化しつつあるタオバオからすると、警戒すべき企業であると言えるでしょう。
華々しい実績とコピー商品の温床といったコントラストが強調されることの多い拼多多ですが、そのビジネスモデル上の特徴についてはあまり語られることがありません。原因のひとつとしては、拼多多のユーザーの多くは2級都市以下に暮らしていることから、メディアの本拠地が多い北京や上海などに暮らす人々からすると、あまり馴染みが無いことがあるようです。しかし、その実態を見ていくと、単なる「ニセモノ市場」という言葉では片付けられない、非常に合理的な特徴が見えてきます。
まず、ユーザー構成を見てみましょう。下図は、拼多多のエリア別・年齢別のユーザー数構成比を示したものです。これを見ると、ユーザーには 2 級都市以下の 30~40 代が多いことがわかります。また、企鹅智库「拼多多用户研究报告」によると、拼多多のユーザーにおける男女比は 3:7 で女性の方が多いと言われています。Tmall や京東が 6:4 であることを考えると、女性が多いプラットフォームと言えます。
次に、拼多多で流通しているのは、どのような商品なのでしょうか。下図は、拼多多、Tmall、京東の 3 プラットフォームでどのような商品カテゴリーが販売されているのかを表したものです。これを見ると、拼多多は他と比べて食品とベビー用品が多いことがわかります。比較的毎日消費し、購買頻度も高い商品カテゴリーが中心のようです。
以上を総合すると、拼多多は、地方の 30~40 代女性が、日々の買い物を行う場になっていると言えそうです。
つまり、スマートフォンでアプリを見ながら「今日は何が安いか」「お買い得製品を誰と一緒に買おうか」といったことを考えつつ、知り合い同士でコミュニケーションを楽しみながら買い物をする。そのようなプラットフォームであると言えます。タオバオや Tmall、京東のように、自身が欲しいブランドを検索窓に入力して最短距離で買う、といった形とは異なる価値をユーザーに提供する、新しいプラットフォームと見るべきであることがわかります。
また、コミュニケーション×EC、というモデルは、他の EC と比べて大きなメリットがあります。それは、低コストでユーザーが獲得できる、という点です。「2 人以上で買うと安くなる」ということで、ユーザーは他のユーザーを
呼びこむのですが、プラットフォームから見れば、コストゼロで新規ユーザーを獲得できることを意味します。もちろん、「値引き」というコストを支払っているのですが、1 人で買うときの価格と 2 人以上の価格設定を工夫すれば、利益を残しながらも 2 人以上での購買価格を「お得」に見せることは可能です。実際、冒頭で触れた通り、拼多多の運営会社は元々ウェブゲームの開発に従事していた会社です。ウェブゲームでは、アイテムの細かな価格設定や時間差での価格変更によってユーザーの購買率が大きく変わります。拼多多は、ゲーム開発で得たノウハウを価格設定に活かしていると言われています。ユーザー当たり粗利よりもユーザー獲得コストの方が高くなっている、とも言われる中国 EC 業界において、低コストでユーザー獲得をできる仕組みを有しているというのは、非常に大きな強みであると言えます。
このようなプラットフォームの違いについて、復旦大学管理学院教授の孫金雲氏は、「アリババは例えるならばグーグル×EC だとすると、「拼多多」はフェイスブック×EC だろう。」とコメントしていますが、言い得て妙だと思います。
以上、中国国内でもまだ評価が定まっていない「拼多多」について解説してきました。一見すると「胡散臭い」ように見えるものであっても、実は合理的かつ競争優位性のあるビジネスモデルを構築している、というのがよく分かるかと思います。おそらく、このようなモデルを有するプラットフォームは、世界的に見ても拼多多が初めてなのではないでしょうか。スピード上場もさることながら、イノベーションを起こしている企業としても、参考になる点が多い企業だと思われます。
ソフトバンクの孫正義氏は、過去に「タイムマシン経営」という考え方を示しました。すなわち、ビジネスに於いて米国は日本の 10 年先を進んでいることから、米国で流行しているものを日本に持ち込めば成功する、という考え方です。当時は、日本にとっての未来は米国でした。しかし、今は中国国内でも、日本はおろか世界的に見ても新しいビジネスモデルが生まれています。世界的に大流行している Tiktok 等はその好例でしょう。
「世界の工場」から「世界の市場」へ、そして「イノベーションセンター」として変貌を遂げつつある中国では、このような一見すると理解しがたいものの実は未来のスタンダードになりうるモデルが次々に誕生しています。ドローンや決済等に限らず、「理解しがたいもの」の中に、日本でのビジネスチャンスが隠れているのかもしれません。
MUFGバンク(中国)経済週報2019年7月10日第429期CDIコラムより
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