中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。
第 4 回は、メディケア業界の先駆者「新氧」。6 月に米国ナスダックへの上場をはたし、今後の成長が期待されているまだ若いネット企業です。
新氧(SO-YOUNG INTERNATIONAL INC.)と聞いて、すぐにわかる人はまだそう多くないでしょう。スマホで「新氧」というアプリをダウンロードしていただくとすぐにわかると思いますが、中国でいう「医療美容」、略して「医美」、つまり美容整形にかかわるネット新興企業です。その医美の世界で、新氧といえば最も有名なアプリサイトで、それはレストランを探すなら大衆点評、美容整形するなら新氧というほど、多くの美容整形に興味のある乙女たち(ばかりではないが)が、まずは、事情を知るために訪れる場所でもあります。アプリにホーム画
面には、「顔面輪郭、ヒアルロン酸、しわ取り小顔、眼、鼻・・・・」と部位別、目的別、サービス別のカテゴリーが並びます。その中にある美麗日記は、そのリアリティから人気が高く、このアプリの重要な価値の一部になっています。
新氧の創業者である金星氏はどんな方なのでしょうか?
彼の母親も整形外科医で、姉の二重瞼は、母が自ら執刀したものだそうです。本人もこの業界に入ると決めたそのときに、自ら小顔注射を受ける決断をしたそうです。より良くこの業界を理解するため、またよりよくこの手術を受ける人の気持ちを理解するために、そうしたのだといいます。
金星氏は、新氧を立ち上げるまでに 2 つの創業を経験しています。2007 年、彼は当時、買い物経験のシェアコミュニティサイトを立ち上げたのですが、失敗でした。当時、スマホの普及もなく、写真一枚をサイトにアップするのも一苦労の時代でした。
彼は、その後テンセントに就職しています。ちょうど、「美麗説」「磨菇街」が起業するのをまのあたりにした時代です。
2011 年 2 回目の創業。その時もまた同じように女性向けの買い物経験共有サイトを立ち上げましたが、しかし、先行する企業には勝てず、投資家からもそっぽを向かれ、失敗に終わりました。大事なのは、タイミングだと悟ったのだそうです。
そして、2013 年に創業したのが、この新氧。当時この業界はまだ黎明期ともいえる時期で、美容整形をやってみたいとは思っても、そのための情報も十分でないという時代だったわけですが、すでにこのころには、2 度の失敗を経験していた金星氏は、コミュニティーをどう運営すればいいのか、何が重要かということを十分に理解していたのではないかと思います。
新氧は、「我々は一切、医療美容の押し売りはしてない。ただ、もしやってみたいという人がいれば、明瞭で、確かな情報を提供できるし、安心して、簡単に美しくなる助けになれる。」という基本理念を有しています。それは初期において、この業界の最大の課題が情報の非対称性であったことによります。サービス提供側の専門的で特殊な情報に対して、それを受ける側の消費者側は、それらを十分に理解するための機会がほとんどなく、その課題に切り込んだのがこの新氧だったというわけです。
ネットのコミュニティーを入口にし、潜在顧客に対してアドバイスをし、そのままネット上で美容医療のサービス提供側へ予約が取れるスタイルになっており、それがゆえに新氧の価値の核心は、コミュニティ自体であるともいえます。医療美容の消費者たちは、重大な判断を下す過程で、コミュニティーの中にある諸々の情報を参照しているわけですが、そのコミュニティーの存在自体が、未知の領域への入り口を広げてくれているともいえますし、誤った方向へ向かわないようにするための道しるべになっているともいえます。
このうち最も皆が注目しているのが、ユーザーコンテンツ(UGC)と専門家のコンテンツ(PGC)で構成されている美麗日記です。とりわけ、そのリアルな体験者自身による記事や執刀医師による手術計画の説明、評価は、これからやってみようと考えている消費者へのアドバイスとしては、他に類を見ないものになっており、最終的な判断をする助けになっています。特に、美麗日記を支える医療機関、医師、サービスメニュー、消費者といった多方面の関与者が、密度の高い評価システムの中におり、それが差別化の要素にもなっており、他社が追随を許さないほどの参入障壁、或いは模倣できない壁を形成しているともいえるのです。
さらにもう一つの新氧の強みは、その一連のプロセスが、閉じたループであることだと言われています。ある投資家は、「ユーザーは、実際にサービスや商品を買った後に、そのプラットフォームの上で、その医療美容体験をシェアすることができるし、製品やサービスの品質を評価でき、それを他のユーザーが参考にすることができる。このフィードバックシステムが、サービスの質を高めるのに役立ち、より良質なコンテンツをプラットフォームに蓄積できるようになっている。」このような閉じたループが、形成できていることこそ強みであり、投資家もそれを重視しているといいます。
これに対して、競合他社のアリババ、美団点評、恒大健康、蘇寧環球と各社が参入してきています。「好大夫」「微医」などメディカル分野をドメインにしたアプリもすでに多く登場していますが、彼らはいまのところまだこの消費医療ともいえる分野への参入について本格的に検討したことがないと言います。
上場を果たし、一息ついた新氧ではありますが、いかにしてこの強みを維持しながら価値を保ち、競合他社と渡り合うか、今後の動静が注目されます。
ネットユーザーの評価で商品の真価を推し量るというのは、どのサイトでも行われています。しかし、最近では、その評価の信頼性は落ちる一方です。
一方、新氧も基本的には同じモデルですが、その評価は、日記という形で行われ、ごまかしできないほどたくさんの写真が掲載され、誰も疑いようがない事実として認識されています。さらに、そこには、執刀医師自らが、詳細な手術計画とその理由や、メリットと課題への対策も載せて、素人であるユーザーだけの表現や評価では、言い足りない部分をカバーしています。また、この仕組みは、腕の立つ医師や、信用できる病院といったところであればあるほど人気が出て、そうでない病院は、淘汰されるという自浄作用をも有しています。こうしたごまかしようのない透明性と公平なシステムを維持できるのであれば、今後も消費者に支持される企業となり続けることができるでしょう。また、我々にとっても多くの示唆を与えてくれる企業であると思えます。
·本文は、soyoung.com,36kr.com 等の記事より作成
MUFGバンク(中国)経済週報2019年8月7日第431期CDIコラムより
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