PERSPECTIVE

2019年12月27日

中国企业透视(8)瑞幸咖啡

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中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。

第 8 回は、スターバックスのライバルとしても有名なコーヒーチェーンの「瑞幸珈琲(Luckin Coffee)」を取り上げたいと思います。

 

Ⅰ.新たな成功事例か?それとも Ofo の二の舞か?

Luckin Coffee(企業名:瑞幸咖啡(北京)有限公司)とは、2017 年 10 月 31 日に創業したコーヒーチェーンであり、レンタカー大手神州優車 COO だった銭治亜が創業しました。2018 年 1 月からテスト運営を開始し、2018 年 5 月時点で 13 都市 525 店舗を展開。 テスト期間中の注文数 300 万件、コーヒー販売数 500 万カップ、サービス提供顧客数 130 万人等、驚異的な数値をマークしたことで、その名を中国全土に知らしめました。そして、2019 年 5 月には NASDAQ に上場し、約 5.6 億ドルを調達することで、世界的にも有名な企業となったのです。なお、中国企業で、飲食系の業態で上場したのは初めての快挙です。
Luckin Coffee のビジネスモデルについては他の場所でも多く説明されておりますが、その特徴を挙げていくと、アプリでの事前予約や完全キャッシュレスの実店舗、デリバリーサービス等、いわゆる「ニューリテール」の特徴として挙げられるものと重なります。実際、ニューリテールの代表企業として取り上げられることも多いように見受けられます。

一方で、その業績に目を向けると、上場した今でも赤字を出し続けています。そのため、Ofo や Mobike 等、事業規模は急速に拡大したもののマネタイズの仕組みが不十分だったスタートアップと同じではないか?と目されることも多いようです。それを受けて、2019 年 1 月の戦略説明会では、銭 CEO 自身が、「コーヒーショップは保証金を取らない」「当社の経営チームは大学を出たばかりのひよっこではなく、起業のプロで構成されている。酸いも甘いも知っている私たちが、“次の ofo”になるわけはないでしょう」と答えています(2019年1月9 日、”Business Insider”)。しかし、大量のクーポン発券による大幅値下げ等の施策を見ていると、ベンチャーキャピタルからのリスクマネーを燃やし続けた ofo や mobike の姿を連想してしまうのも事実です。一体、彼らは成功事例なのでしょうか、それとも、Ofo の二の舞なのでしょうか?

 

Ⅱ.データが照らし出すラッキンコーヒーの実力と狙い

上記の問いに答えるために最も効果的なのは、データを見ることです。Luckin Coffee は NASDAQ に上場しているので、財務データや事業の KPI 等は公開されています。「中国企業の財務データ」というと、一昔前は(あるいは一部では現在でも)不透明な印象を持ちがちですが、実は、海外市場での上場を目指すスタートアップを中心に、非常に透明化が進んでいます。そこで、ここでは、直近(2019 年第三四半期)の株主向けプレゼンテーション資料を元に、Luckin Coffee の実態をご紹介したいと思います。それを通じて、Luckin Coffee が本当に Ofo の二の舞なのか、それとも革新的かつ戦略的な企業なのかを検討していきましょう。

まず、全体の業績を見ると、売上高は 15億4,159万元となり、2018年第3四半期の 2億4079万元から 500%を超える増収となっています。一方で、営業損失は 5 億 9,088 万元(営業利益率▲38%)と、まだまだ赤字の状態であるものの、前年数値である 4 億 8,561 万元(営業利益率▲202%)からは利益率ベースで大幅に改善しています。また、本四半期のホットトピックとして、継続的に改善してきた店舗当たり利益率が黒字化したことも挙げられます(図 1)。

黒字化の背景には、カップ当たりコストの急速な改善があります。図2はカップ当たりコストの前年比較ですが、各項目で改善を実現できているのが分かると思います。改善要因としては、規模拡大によるバイイングパワーの増大等もありますが、注目すべきは、運営効率向上やスタッフのスケジューリング効率化等、データ活用による効率化です。Luckin Coffee は、新たな「規模の経済」のメリットを享受しているといえるでしょう。

また、商材の拡大も継続的に進めています。ジュースやナッツ、コーヒーカップ等の重ね売りだけでなく、ティーブランド「小鹿茶」を 2019 年 4 月から開始しており、2019 年 9 月には分社化を発表するまでに成長しています。それに加え、2019 年には営業範囲の拡大を申請したとの報道もあったことを考えると、コーヒーで捕まえた顧客に対し他の商材を重ね売りして収益を更に改善していこうとしているのは明らかでしょう。実際、図 3にある通り、コーヒー以外の売上高比率は徐々に増加しています。

つまり、強い(この場合は低価格でコストパフォーマンスの高い)商材や顧客接点で顧客を獲得し、そこで得たデータを元に効率化でコスト改善を行い、更に新たな商材を重ねていく。そのようなオンライン・オフラインを活用した「顧客囲い込み」モデルを打ち立てているのが、Luckin Coffee の実態なのです。(図 4)

2016 年にジャック・マーがニューリテールを提唱した際、その概念は新奇性は高かったものの、具体性には乏しい状況だったように記憶しています。そこから 3 年、Luckin Coffee は、それに対して一つの成功モデルを提示したといえるでしょう。

実際、株価を見ると、2019 年第三四半期のリリースを受けて成長しています(図 5)。「Luckin Coffee は ofoの二の舞か?」という問いに対して、市場は「NO」と答えたようです。

 

Ⅲ.「ニューリテール」=「顧客囲い込み競争」を勝ち抜くために

さて、これまで Luckin Coffee が具現化してきたニューリテールの成功モデル、すなわち顧客囲い込みモデルを見てきましたが、この構図は、デジタルの力により顧客との関係維持が容易になってきた現在、どの業界にも当てはまるものだと思われます。以前から、「お客様との末永いお付き合い」の重要性については様々な業界で言われてきたと思いますが、デジタルの力により、「データ」という新たな資源を活用できるようになった、ということだと言えます。

このような成功モデルから見ると、自社の現状はどのように見えるでしょう。例えば、11 月の W11 で売上成長したメーカーは多数存在すると思いますが、顧客接点という意味ではどうでしょうか?LuckinCoffee と同じように、データ活用による効率化や重ね売りによる客単価向上ができるような状態にあるでしょうか?おそらく、Tmall や JD 等の大手プラットフォームに頼っているだけでは、Luckin Coffee のような大幅な改善は難しいでしょう。彼らがこのフードデリバリー全盛の時代に実店舗をあえて設けたのも、大手プラットフォーマーからデータ面における「独立」を勝ち得たかったからだと想像できます。

最近では、(特に日本語メディアでは)日本の商品が中国で受け入れられるという報道をよく目にするようになりました。しかし、それが本当に自社の長期的な成長につながっているのか。プラットフォーマーの維持拡大に貢献しているだけではないのか。そのような視点も重要であることを、Luckin Coffee の事例は示しているのではないでしょうか。

 

MUFGバンク(中国)経済週報2019年12月5日第439期CDIコラムより

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