PERSPECTIVE

2019年11月27日

中国企业透视(7)盒马鲜生

作者:仁田脇

中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。

第 7 回は、中国の EC 最大手アリババが提唱する「ニュー・リテール(新零售)」戦略の中核を担う「盒馬鮮生」(フーマー・フレッシュ、以下“フーマー”)を取り上げます。

 

Ⅰ.オンラインとオフラインの「いいとこ取り」

フーマーは、言ってしまえば「生鮮食品のスーパー 兼 生鮮食品 EC の物流拠点」のような業態です。実店舗で実際に製品(特に生鮮食品)を自分の目で見て選び、購入するという伝統的なスーパー機能。そのスーパーの陳列品/在庫品を店員がピックアップし、配達員に託すという EC 物流拠点機能。これだけ見れば、単なる「宅配もやっているスーパー」のように見えるかも知れません。

フーマーの巧みなところは、実店舗での購買体験をフックに、顧客を EC に誘導している点にあります。フーマー店舗の特徴として、大規模な生け簀を伴う水産物売り場と、それに隣接するフードコートが挙げられます。顧客が実際に鮮度を確かめた上で生け簀から水産物をピックアップして購入し、それをフードコートで調理してもらい、その場で食べることが出来るのです。

これによって実店舗は「エンタメ体験をする場」にして「生鮮食品の鮮度を確認するショーケース」としての機能を帯びてきます。顧客はフーマーのファン化すると同時に、フーマーの取り扱い製品への信頼が高まりますので、EC への誘導/リピートが容易になる、という仕組みです。フーマーの EC 売上比率は 50%超、一部店舗では EC 売上が 70%を超えるという公表値が、この効果を物語っているでしょう。

また、店舗を持つことを物流の効率化にもつなげています。通常、生鮮食品 EC であれば、冷蔵物流チェーンの確立に莫大なコストがかかるものです。しかし、フーマーは店舗に物資を集約し、店舗からの配送は半径 3km 以内の近距離常温輸送のみに限る、としたことで、この問題に対応しています。

実体店を「店舗+ショーケース+物流拠点」とすることで顧客/事業者双方の EC 実現へのハードルを下げ、オンライン注文とスピーディな個別配送という EC のメリットを顧客に享受させる。まさに、オンラインとオフラインの「いいとこ取り」を実現した「小売の新しい形」と言えます。

 

Ⅱ.「1+1>2」は実現できるのか?

このように書くと、さもフーマーがアリババの掲げる「ニュー・リテール」戦略の核心である、「OMO(Online-Merge-Offline)」すなわち「オンラインとオフラインの融合」の“理想形”のように聞こえるかも知れません。しかし、話はそう単純ではありません。

そもそも、生鮮食品の小売事業者として見た場合に、管理水準が不十分な面があります。2018 年には、腐ったリンゴをジュースに加工して販売した事件、野菜の生産日ラベルを何回も付け替えた事件、賞味期限切れの飲料を販売していた事件などが相次いで発覚。2019年にも、販売していたソーセージから基準値を大幅に上回る大腸菌が検出されました。食品の安全性に対する“脇の甘さ”があったのは事実でしょう。

また、事業開始から未だ 3 年とは言え、黒字化できていない点も問題です。具体的な経営状況は公開されていませんが、フーマーが 2019 年 7 月時点で全国に構える 160 超の店舗のうち、黒字を達成している店舗は一部に過ぎないと言われています。特に注目すべきは、2019 年に入ってから、共同出資という形でフーマー店舗を運営していた大型スーパーマーケットチェーンとの合弁解消が相次いでいることではないでしょうか。

4 月には浙江省で三江購物が、5 月には海南省で大潤発が、そして直近の 10 月には福建省で新華都が、それぞれ赤字を理由に合弁を解消し、省レベルでのフーマー運営会社から撤退しています。合弁解消の詳細な理由は明らかにはされていませんが、フーマー/スーパーマーケットチェーンの双方に、それぞれ理由があったようです。

フーマー側は実店舗の運営ノウハウを注入してほしかったものの、当初期待したほどの店舗効率化が実現できず、完全に自前での店舗運営に舵を切る、という方針転換があったようです。

一方のスーパーマーケットチェーン側は、そもそも業績が芳しくない中で、フーマーとの協業による収益改善を狙っていたものの、予想以上に先行投資がかさむことに耐えられなかったのではないか、とも言われています。真に「オンラインとオフラインの融合」を実現するには、オンラインとオフラインの強みを発揮した上で、更にシナジー効果を生む、言うなれば「1+1>2」にしていく営みが求められるはずです。

物流の最適化、データの利活用、App 等を通じたユーザー体験の向上などは、EC 最大手であるアリババ陣営が得意とする所です。一方で、店舗サービスの充実や、生鮮食品の取り扱いに係るスタッフ教育などはオフライン小売事業者に一日の長があるはずです。既に述べたように、実店舗でのユーザー体験の向上を通じた顧客の“ファン化”がフーマー店舗運営の肝である以上、これらの要素を無視した業績改善は望めないでしょう。

その意味で、フーマーにとって、オフラインの大手小売チェーンを引き留められなかったことは、大きな痛手であるようにも思われます。

「ニュー・リテール」の旗印のもと、オンラインの強みを付加した新たなオフライン店舗運営を志すフーマーですが、“プラスワン”となるオフラインの要素をどう補うか、が今後の課題と言えそうです。

 

Ⅲ.日本企業が“プラスワン”として存在感を発揮するために

ネットユーザーの評価で商品の真価を推し量るというのは、どのサイトでも行われています。しかし、最近では、その評価の信頼性は落ちる一方です。『2018 年中国農産品 EC 発展報告書』によると、生鮮食品は 97%がオフラインで購入されており、生鮮食品EC こそが「EC 領域の最後のブルーオーシャンである」と述べられています。

一方で、中国 EC 研究センターのデータによれば、中国の生鮮食品 EC 事業者は大小あわせて 4,000 を越えますが、実に 95%の事業者が赤字であり、利益をあげられているのは僅か 1%です。中国の生鮮食品 EC はあくまでも一例に過ぎませんが、やはり、“ブルーオーシャン”として最後まで残される領域には、残されるだけの理由がありますし、それを克服するには、単にコンセプトや技術の新規性だけでは難しいものがあり、更に“プラスワン”の要素が求められるということではないでしょうか。

それは或いは、厳しい規制や、 “贅沢な”消費者ニーズに応えてきた日本企業ならではの経験やノウハウが活かせる領域である、と言うことができるかも知れません。

ただし、「日本品質」というラベルを免罪符に、現地マーケットに合わせたカスタマイズ/チューニングを怠り、過剰品質を強いることもまた、日本企業が犯しやすい失策であるように思います。

現地マーケットの実態と、その中で協業相手が何を行おうとし、何を求めているのか。それらを冷徹に見極めた上で、自らの経験/ノウハウを上手に「切り売り」する。そんな強かさこそが、日本企業が今後の中国市場で存在感を発揮するために必要なのではないでしょうか。

 

MUFGバンク(中国)経済週報2019年11月6日第437期CDIコラムより

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