中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受けて、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えました。そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されています。しかし、以前の批判的な風潮からの反動からか、手放しで礼賛するような報道も散見され、かえって実態が見えづらくなっているように見受けられます。そこで、本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたいと思います。
第9回は、「作業幇」というアプリで小中高向けのオンライン教育分野を席巻する小船出海教育科技(北京)有限公司をとりあげたいと思います。
そもそも「作業幇」というアプリは何でしょうか?「作業」とは中国語で、宿題という意味です。幇は、助けるという意味で、「宿題の助っ人アプリ」というような意味合いを持っています。現在、中国で最大の K12ユーザーのオンラインプラットフォームであり、累積で、4 億をおえるアクティブユーザーを擁し、APPSTORE の K12 教育分野では、長年にわたり 1 位の座を守り続けています。(K12 とは、幼稚園=kindergarten の K と、その後続く小学 6 年、初中 3 年、高中 3 年の計 12 年を指します。)
次の表は、教育関連アプリの端末接続数ですが、2019 年 6 月では、作業幇が、9776 万台と、2 番目の有道詞典の 2 倍近くを記録しています。
当社のオフィシャルサイトには、「先を行く教育テクノロジー企業」で、オンライン学習なら作業幇を使おう!というメッセージと共に、月間アクティブユーザー数 1.2億人+、練習問題数量1.8億問+、問題検索市場シェア 70%以上とあります。事実、中国すべてのアプリのアクティブユーザーランキング 100 位に唯一教育分野でランクインするアプリです。
企業優位性の核心価値ともいえる機能は、難問を写真に撮ると、わずかな時間で解答を示すことができ、学習効率を高速で高めることができ、また、有名な講師が、オンラインで指導するため、家を出なくても効率よい学習が可能だという点だとしています。
当社には、現在700人の専属教員がおり、約5000人の専属の学習補導員がいます。こうした教師は、教育現場から応募してくる人や、それ以外から応募してくる人がいますが、1/3は、大学の新卒者で、独自に教育研修を施し育成された教師陣です。
テクノロジー企業でもある当社は、OCR(光学的文字認識技術)と検索の核心技術特許を多く申請しており、AI 技術を用いた図形識別技術など分野で先端技術を有しているとしています。すでに 1000 人以上のネット関連のエンジニアを有し、研究開発に余念がありあせん。また、それ以外に、200 人の UI エンジニアを有しています。そのうち半分は、挿絵のデザイナーです。学習に必要なわかりやすい図や、挿絵を作成するのも非常に重要な業務で、毎年 2000 万冊以上の紙媒体の学習用の冊子を利用者にとどけています。
2015 年に紅杉資本(セコイアキャピタル)がシリーズ A の融資をしています。このセコイアキャピタルは、アメリカを代表するベンチャーキャピタルで、アップルや、グーグル、インスタグラムなどに当初から投資をしてきました。君聯資本(レジェンドキャピタル)は、もとの名を、聯想資本といい、名前からもわかる通り Lenovo で有名な聯想グループの投資会社です。シリーズ B では、さらに紀源資本 GGV、襄禾資本も加わります。紀源資本GGV は、小紅書(Red Book)や、HelloBike にも投資している VC です。
直近では、シリーズ E として、2018年にソフトバンクも 5億ドルの融資をしています。こうして設立当初から比較的潤沢な資金を得ながら順調に成長をしてきたと言えます。
この数年、ベンチャー投資が低迷するなか、K12 分野への投資は、非常に活発で、2018 年の統計((易観国際)では、K12 分野への融資は、29 件に上り、総額で 118 億元(約 1800 億円)にもなります。多くの企業が、1億米ドル以上の融資を得ており、なかでも作業幇の3.5億米ドルは、教育分野において、当時としては最大のものでした。宿題対策ツール系はとりわけ人気が高く、作業幇にくわえ、同類の「一起作業」、「作業盒」となどを含めると、合わせて 7 億米ドルもの資金をえたことになります。
作業幇の小船出海教育科技(北京)有限公司は、今後どう成長するのでしょうか?
中国教育分野で生まれた英語流利説(LAIX.N),跟誰学(GSX.N)などいくつかの企業は、米国ナスダックなどでの上場を果たしています。小船出海教育科技(北京)有限公司も上場も後に続くことになると思われますが、創始者の侯建彬は、それを否定しています。彼らは、むしろ現在は、K12 向けの商品とサービスの拡充、品質の向上に注力すべきで少なくともこの 1,2 年には、上場はしないとしています。
彼は、これまで 2 つの大きな戦いを経てきたと考えています。一つは、技術力を用いてネット上での流量を引き上げる戦いです。これについては、この 2 年の間に、勝利を収めたと考えています。もう一つの戦いは、中国の K12 オンライン教育プログラムでの戦いですが、こちらは持久戦だと考えています。より長期的に、忍耐を以て勝ち取るもので、短期的に無理をしたとしても勝利には結びつかないという覚悟のようです。
現在、中国には、1.8 億の小中学生がおり、そのうち 73%の子供たちは、必ずしも教育環境の良いとは言えない 3 級から 6 級都市にいます。創始者の侯建彬氏自身も、河北省衡水という小さな街から北京大学に入学しました。その彼は、「勉強は運命を変えます、とりわけ辺境にいる子供たちの。彼らこそより質の高い教育資源に接する必要があり、そうすることで運命を変えるチャンスもより大きくなるのです。」と考えています。こうした彼の創設した会社が、テクノロジーと資本と、良質の教育サービスを通じて、今後どれほど多くの子供たちの運命をかえることになるのか、今後も目が離せません。
MUFGバンク(中国)経済週報2020年1月3日第441期CDIコラムより
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