PERSPECTIVE

2021年03月28日

中国企业透视~元气森林

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中国経済の持続的な成長やインバウンド需要等を受け、日本国内でも中国経済に関する報道が随分と増えており、そこで取り上げられる企業も、アリババやテンセントに留まらず、様々な企業が紹介されている。本コーナーでは、日本で紹介され始めている著名中国企業を取り上げ、その実態と将来の展望、日本企業に対する示唆等を述べていきたい。

今回は、競争の厳しいソフトドリンク業界で急成長している「元気森林」を運営する元気森林(北京)食品科技集団有限公司である。

 

Ⅰ. 業界競争に勝つ日本風ソフトドリンク

「元気森林」は、近年、中国の商品陳列棚での最も視界に入りやすいところにあるソフトドリンクだ。ペットボトルを覆う白地の包装にはピーチやレモンの絵の上に、大きな日本語漢字で「気」と書かれている。真ん中には、「0糖分、0脂肪、0カロリー」と、3 行箇条書きでそれが健康的で身体にやさしいことをアピールしている。

一見、てっきり日系メーカーの新商品ではないかと思われるが、実は「元気森林」は、日系メーカーのブランドではない。2015 年の「インターネット+α」起業ブームの中から成長してきた中国企業である。2019 年 8.7億人民元の売上、2020 年には約 20 億元に急成長している。しかも2020 年の W11(独身の日 EC 商戦)で、元気森林の Tmall 売上は2000 万ボトルを超え、ソフトドリンク業界の TOP となり、この競争の厳しいソフトドリンク業界で注目を浴びることとなった。

中国のソフトドリンク市場はコカコーラ・康師傅・統一・娃哈哈・農夫山泉の 5 社の寡占市場と言える。品目から見れば、ミネラルウォーター、お茶、炭酸水は売上高 TOP3 品目である。

こんな寡占市場で新製品が勝ち残ることは極めて困難だ。一部の地域内で影響力を持つソフトドリンク、例えば、オレンジ味炭酸水の北京「北氷洋」と西安「氷峰」、清涼飲料水の広東「健力宝」は、他地域への拡張がうまくすすまず、経営的に存亡危機に直面したことさえある。大手も新製品で成功するとはかぎらない。娃哈哈は 1998 年「非常可楽」というコーラ類炭酸水を上市し、3 級、4 級都市、農村部で 20%以上のシェアを占めたが、その後コカコーラやペプシの対抗措置により、現在はほぼ販売停止だ。3 年前、コカコーラも低カロリーの炭酸水を販売し始めたが、いつのまにか販売停止となり、無糖コーラ・無糖スプライト、そしてシュウェップスなどの無糖炭酸水に代替された。こうした厳しい市場であるからこそ、元気森林の躍進が注目される。

 

Ⅱ.「ネット」と「コンビニ」を切り口に若者市場を拡大

急成長を成し遂げた鍵は、若者うけする「商品」をベースに、まず1,2級都市部の若者をターゲット顧客セグメントと捉え、彼らがよく知っている「ネット」と「コンビニ」に集中したことだ。

創業者の唐彬森氏は元気森林が急成長した理由は「コンビニと EC プラットフォームという 2 つの『新しいチャンネル』で、消費者にアプローチしたことと、オンラインマーケティングでは、トラフィックを買い(すなわち、新規顧客を開拓し)、SNS のプライベートエリアで KOC(Key Opinion Consumer)を使いながらうまく若者顧客を開拓できたこと」だという。

(健康志向の商品戦略)

健康志向の高まる中国では、近年、若者は従来型の甘い炭酸水を「肥宅快楽水」と揶揄し、それこそが肥満の由来だとすら考えているようだ。スポーツの後や、辛い料理を食べた後、どうすれば甘味を味わっても太らないかという課題に対し、無糖炭酸水のニーズが高まった。

元気森林は、甘味では「エリスリトール」というトウモロコシのでん粉を原料に生産された希少糖を使っている。エリスリトールは、甘味度は砂糖の約70%で、清涼感があり口当たりもよい。摂取しても体外に排出されるので、ゼロカロリーの糖質と言われる。そのため普通の無糖炭酸水に使うアスパルテームよりコストは高いが、健康的であると考えられるようだ。「0 糖分、0 脂肪、0 カロリー」は、そんな課題に苦慮する若者の心を掴んだ。

(オンラインで若者にアプローチ)

ターゲット顧客は、まさにその若者だった。そこへアクセスするのにファッション・ポップカルチャーとの相性がいい Redbook、Bilibili といったアプリで公式アカウントを作り、人気芸能人 SNH48 や王一博などをイメージキャラクターとして起用した。時には、ゲームショウ Chinajoy、オンライン・バラエティー番組などのスポンサーにもなる。さらに元気森林は主に大都市のコンビニに商品を置き始め、都市のオフラインで存在感を高めることとなった。EC チャンネルでは、ブランドイメージ広告が多い他のメーカーに比べ、Wechat モーメンツ(微信朋友圈)での製品広告を打ったり、Tmall・京東ではクーポンやイメージキャラクターをつかった巧みな販促活動が見られる。その結果、3 割の売上はオンラインがカバーした。

ソフトドリンクの広告では、衝動買い的な購買行動を狙っている。

大手は、バス停・地下鉄駅・テレビに幅広く膨大な広告宣伝費を使っている。元気森林は、主にコンビニやオンライン広告に的をしぼっているが、それでも2020 年には、20 億元の売上に対し、25%、すなわち、約 5 億元を広告宣伝費に使ったと言われる。最も良く見える場所に棚をとるコンビニでの売り場構築にも他社より多くの「入場料」を支ってきた。さらに、元気森林のコンビニチャネルの担当者は、コンビニへの商品の入荷からアフターサービスまで、シームレスにコンビニやその顧客とつながり、コンビニ・チャンネルでの優位性を確保しようとしている。

(3,4 級都市エリアでの挑戦))

元気森林の売上は、大手と比べると、けた違いに小さい。それはそのカバーしているエリアの違いともいえる。3,4 級都市群は、これから開拓すべき重要なエリアだ。しかし、それらの地域の消費者はまだコーラより値段が高く、それほど甘くない無糖炭酸水を飲む習慣がない。2020 年 8 月の報道では内陸部の都市で元気森林の姿を見るようになったが、そのさらに地方の小さな町にまでは至っていない。

こうしたなか、3,4級都市の消費者にアピールするべく元気森林は、Tiktok で「コカコーラ」や「農夫山泉」で検索すると、健康向上のアピールと割引付きの元気森林の販促動画をオンラインで流し始めた。

また、地方のオフラインチャネル戦略において、コンビニが少ない3,4級都市では、どのようにパパママショップのチャンネルに入るかが大きな課題である。中国では約 680 万軒のパパママショップがある。そのパパママショップでドリンク販売の勝負を決めたのは、冷蔵庫である。

コカコーラや農夫山泉は、ブランドロゴ付きの冷蔵庫を置くことで、地方市場を拡大してきた。元気森林は、2021 年上半期に全国の 8 万軒のパパママショップに専用冷蔵庫に提供し、自社ブランドをアピールするとしている。また、その冷蔵庫は、スマート冷蔵庫ともいえ、売上・出入荷のデータをモニタリングできる「物流―倉庫―末端店舗」のネットワーク構築にも使え、末端店舗の収益可視化を目指している。

(戦略を指揮する経営者とそれをささえる資本)

創業者の唐彬森氏は、安徽省合肥市生まれ、2008 年北京の大学で修士課程を終え、起業を始めた。智明星通科技公司の CEO を務め、ウェブゲーム「開心農場」を発表し、ブームになった。2015年には「Clash of Kings」というゲームアプリも出している。2014 年、唐氏は挑戦者資本というベンチャーキャピタルを設立し、資本規模は約 50 億元で、「拉面説」「熊猫精酿」など 100 社以上の消費・TMT 系事業に投資している。2018 年元気森林も挑戦者資本の投資を受けている。

元気森林は「インターネット+α」的な社風を持つソフトドリンク企業で、創業時は、まるで IT ベンチャーのような雰囲気を持つ企業だった。もともと、元気森林は、その R&D センターからスタートし、2017 年までの元気森林は、100 人足らずの社員が、ウェブゲーム時代から使っているオフィスでドリンクを試作していた。ビールやお茶など、失敗作も数多く作った。2017 年~2018 年にかけて、ようやく初めての製品が登場した。

 

Ⅲ.さらなる成長戦略 海外展開と多彩なラインナップ

20 億元売上を達成した元気森林は、2021 年の売上目標を前年の 3 倍以上の 75 億元としている。その目標を達成するための一環として、「海外販売」と「製品多角化」という方向で拡張を試みている。Tmall 国際版によると、元気森林の売上は 40 以上の国・地域で 69%以上の成長を遂げたらしい。2020 年、元気森林はシンガポールの HCS(Healthier Choice Symbol)認定を取り、コンビニやネット通販で無糖炭酸水を販売し始めている。今後、日本でも元気森林の姿を見る日が来るかもしれない。無糖炭酸水の競合が多い欧米市場では、どう競争に勝つのか課題になるであろう。

ラインナップの拡大も目指している。無糖炭酸水のほかに「無糖質、0脂肪、口直し」のコンセプトで「燃茶」というお茶も出している。さらに、ミルクティー、オートミール、ヨーグルト、お菓子といった製品にも展開を進めており、ヨーグルトの「北海農場」は、2019 年すでに元気森林から独立し、おもに無糖ヨーグルトを販売している。

若者たちが製品開発にたっぷり時間をかけ、同じ若者に狙いを定めた商品を作った。ネットとコンビニチャネルに資源を集中投下し、若者たちにアピールし、それが支持された。一連の急拡大に成功した元気森林は、新しく生まれたブランドをいかに早く成長させるかという一つの方法を示してくれているように見える。今年75 億の売上を達成するかどうかは、わからないが、これからも「元気」な姿に注目していきたいものである。

 

参考記事:第一財経、21世紀商業評論、Tmall、36氪、Sohu、Sina

MUFGバンク(中国)経済週報2021年3月23日第494期CDIコラムより

URL:https://mp.weixin.qq.com/s/OHH79mhZ8wOJ84hMYKJ_wg(日本語)

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